企業にとって事業承継は、企業の保有する技術やノウハウを次の世代に承継する非常に重要なものであり、うまくできなければ企業の存亡にかかわる問題でもあります。
また、法人としての事業承継は、株式や出資金を引き継ぐことが、経営権と財産権を承継する基本となります。
今回は、経営者に支払う退職金を活用することで、株式の移転(贈与)をスムーズに行う方法を検討します。
1.こんなお悩みありませんか?
このようなお悩みの場合には、役員退職金を活用した事業承継対策が有効です!
ポイント
- 身内に後継者がいること
- 株式の贈与を希望していること
2.対策によってもたらされる効果
①退職金の支給により株価が下がり、株式の贈与が実行しやすくなる。
②退職金の支払いにより経営権の譲渡の意思を明確することで、後継者の経営者としての自覚促すことが期待できる。
③退職金は、退職所得控除があるうえ、1/2課税、源泉分離課税なので手元に資金が残りやすくなる。
3.対策のながれ
経営者は、退職金を受給して代表権を後継者に譲って退任します。
後継者は、経営者から代表権を引き継ぎ、会社の代表に就任します。
経営者に退職金を支給したことで、株式評価額が下がります。
株式評価額が下がっている1年の間に、経営者から後継者に株式を贈与します。
株式評価額が下がることから、後継者の税負担を軽減することができます。
解説
①退職金受給額の多くを手元に残すことができる
退職金は税負担が少なく済みます。したがって、受給額の多くを手元に残すことができます。
※参考 退職所得に係る税額の求め方
・上記算式の退職所得控除額は次の表を参照してください。
・上記算式の1/2について、役員任期が5年以下の場合は乗じることはできません。
例)役員在位30年 退職金4,000万円のケース
②退職金支給年度終了後1年以内に後継者に株式を贈与する
退職金支給に伴い、退職金支給後、株式評価額が下がります。
株式評価が下がる効果は、退職金支給年度終了後1年間のみであるため、この1年の間に後継者に株式を贈与します。
③退職金相当額の資金が必要となるため準備が必要となる
退職金相当額の資金の準備が必要です。
準備する方法としては、事前に保険を活用して積み立てる、運転資金に支障をきたすようであれば、金融機関等からの融資なども検討します。
④役員退職金は一括で支給する
役員退職金が確実に損金として認められるためにも、未払計上せず、一括で支給しておくことが望ましいといえます。
4.役員退職金の活用をすることによるメリット
- オーナーの交代が明確であるため、後継者の経営者としての自覚を芽生えさせることができる。
- 退職金は税負担が少なくすむため、受給額をその他事業承継にかかる費用に活かすことができる。
- 経営者の交代ということで、オーナーの退任と株式の移動をセットで行うため、対外的にも説明がつきやすい。
5.役員退職金の活用をすることによるデメリットと留意点
- 退職金支給のため、多額の資金を調達する必要がある。
- 先代経営者は退職金を受給して退任するため、経営の第一線から退かなければならない。
- 株価が下がるのは退職金を支給したのち1年間だけであり、その間に株式を後継者に贈与する必要がある。
- 過大役員退職金とみなされないよう、役員退職金規定や株主総会での決定などの手続きを確実に踏む必要がある。
※参考 役員の退職金について
【役員退職金の算定方式】
①功績倍率法
②1年当たり平均額法
この方法は、類似比較法人の勤続年数1年当たり平均退職給与を計算し、当該役員の勤続年数を乗じて算出する方法です。
しかしながら、類似比較法人の退職金を入手することが困難であるため、裁判事例等を参考にすることもあります。
※中小企業にとっては一般的ではありません。
【過大な役員退職給与の損金不算入】
役員退職給与のうち、不相当に高額とされる部分の金額は、法人税の計算上、損金に算入されないため注意が必要です。
法人税では、役員退職給与が不相当に高額か否かの判断は、その法人の業務に従事した期間、退職の事情、その法人と同種の事業を営む法人で事業規模が類似するものの役員退職給与の支給状況等に照らして行われます。