結婚、出産、住宅購入、子どもの進学など、人生にはまとまった資金が必要となるイベントがいくつかあります。
「教育資金」、「住宅取得等資金」、「結婚・子育て資金」について、贈与の特例が設けられていますが、その中でも、「結婚・子育て資金」については、平成27年度税制改正において創設された新しい制度です。
今回は、「結婚・子育て資金の贈与を受けた場合の贈与の特例」について、見てみましょう。
教育資金に関する贈与の特例、住宅取得資金に関する贈与の特例と合わせて、贈与の3大非課税制度です。
☆☆参考☆☆教育資金に関する贈与の特例、住宅取得資金に関する贈与の特例に関する記事はこちら
◆教育市場へ流れる相続マネー 利用者急増の贈与税対策のノウハウとは
◆あなたも使える住宅取得資金に係る贈与税の非課税措置
なぜ、結婚・子育て資金の贈与の特例は導入されたのか?
将来の経済的不安が若年層に結婚・出産を躊躇させる大きな要因の一つとなっています。このような状況を踏まえて、親や祖父母の資産を早期に移転することを通じて、子や孫の結婚・子育てを支援するため、この制度は導入されました。
現在、家計資産の約6割を60歳以上の世代が保有している状況にあります。この家計資産を、より早期に若い世代へ移転することで、経済を活性化させたいという目的があるのです。
若い世帯への早期の資産移転につなげたいという目的は、教育資金、住宅取得等資金の贈与の特例の背景にも共通しています。
結婚・子育て資金の贈与の特例制度
1,000万円まで、贈与税がかからずに子や孫に、結婚・子育て資金を贈与することができます。
※結婚に際して支出する費用については300万円を上限となります。
2015年4月1日から2021年3月31日までの間に贈与された場合に適用されます。
※2019年度税制改正にて、適用期限が2年延長(2019年3月31日まで)されました。
この制度の適用を受けるには、贈与を受ける者は20歳以上50歳未満の者でなければなりません。
暦年贈与、相続時精算課税制度との併用が可能です。
結婚・子育て資金として使える範囲
2019年度税制改正
受贈者の合計所得金額が1,000万円超の場合は適用できないこととする措置が設けられました。
受贈者の所得に関する措置は、平成31年4月1日以後に信託等により取得する信託受益権等に係る贈与税について適用されます。
特例制度を利用するには所定の手続が必要です
結婚・子育て資金口座の開設等
この特例の適用を受けるためには、金融機関等(信託銀行等、銀行等又は証券会社)に結婚・子育て資金口座の開設等を行った上で、「結婚・子育て資金非課税申告書」を、その口座の開設等を行った金融機関等の営業所等を経由して、受贈者の納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。
「結婚・子育て資金非課税申告書」は、信託銀行、銀行等、証券会社のいずれか1箇所のみに提出できます。したがって、結婚・子育て資金口座を開設できる金融機関は1箇所のみです。
金融機関別の適用方法
(1) 信託銀行の場合
受贈者が、直系尊属から贈与された金銭を、信託銀行等と自己を受益者とする結婚・子育て資金管理契約に基づいて信託します。
(2) 銀行等の場合
受贈者が、直系尊属から書面による贈与契約によって贈与された金銭を、銀行等と結婚・子育て資金管理契約に基づいて預貯金として預け入れます。
(3) 証券会社の場合
受贈者が、直系尊属から書面による贈与契約によって贈与された金銭等をもって、証券会社等と締結した結婚・子育て資金管理契約に基づいて有価証券を購入します。
贈与は一括で行う
結婚・子育て資金の贈与は、一括で行わなければなりません。
では、増額したい場合はどうなるのでしょうか。
例えば、結婚・子育て資金の贈与の特例を適用して、子の医療費として200万円をすでに贈与していて、さらに300万円増額したい場合などです。
このような場合には、「追加結婚・子育て資金非課税申告書」を結婚・子育て資金口座の開設等を行った金融機関の営業所等を経由し、納税地の所轄税務署長に提出します。
結婚・子育て資金口座からの払出し及び結婚・子育て資金の使い方と使いみちの証明方法とは
結婚・子育て資金口座からの払出し及び結婚・子育て資金の支払を行った場合、その支払に充てた金銭に係る領収書など、その支払の事実を証する書類を金融機関等の営業所等に提出する必要があります。
書類の提出期限は、次の(1)又は(2)のとおりです。
(1) 結婚・子育て資金を立替払いした後、金融機関に領収書等を提出して、払出しを受ける方法
→ 領収書等に記載された支払年月日から1年を経過する日
(2) 結婚・子育て資金を支払う前に、金融機関から結婚・子育て資金の払出しを受け、後日領収書等を提出する方法
→ 領収書等に記載された支払年月日の属する年の翌年3月15日
内閣府で用意されている参考資料
①費目リスト
②-1 支払先一覧
②-2 子の育児に係る費用の支払先一覧
③-1領収書等における確認事項(結婚費用)
③-2領収書等における確認事項(子育て費用)
④領収書等以外に必要な書類
⑤提出書類一覧
結婚・子育て資金口座に係る契約の終了
結婚・子育て資金口座に係る契約は、次の(1)~(3)の事由に該当したときに終了します。
使い残しには贈与税が課税される?
上記(1)又は(3)の事由に該当したことにより、結婚・子育て資金口座に係る契約が終了した場合、非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除して残額があるときは、その残額が受贈者の上記(1)又は(3)の事由に該当した日の属する年の贈与税の課税価格に算入されます。
したがって、その年の贈与税の課税価格の合計額が基礎控除額を超えるなどの場合には、贈与税の申告期限までに贈与税の申告を行う必要があります。
上記(2)の事由に該当したことにより、結婚・子育て資金口座に係る契約が終了した場合には、贈与税の課税価格に算入されるものはありません。
教育資金の贈与の特例との比較
結婚・子育て資金の贈与の特例と教育資金の贈与の特例、それぞれのポイントについて、次の表で確認しましょう。
☆参考☆教育資金の贈与の特例に関する記事のリンク
◆教育市場へ流れる相続マネー 利用者急増の贈与税対策のノウハウとは
上表のとおり、両制度を比較すると、受贈者の年齢範囲や非課税限度額が異なります。
特に、結婚・子育て資金の贈与の特例について、贈与者である直系尊属が資金管理契約期間中に死亡した場合に、その残額については相続税の課税価格に加算する点が大きく異なります。
具体的には、結婚・子育て資金の贈与の特例において、受贈者は贈与者が死亡した日における非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額として政令で定める金額を、その贈与者から相続等により取得したものとみなすということです。
この残額に対応する相続税については、孫等への遺贈に係る相続税額の2割加算の対象としない旨などが規定されています。
この相違点の理由として、30歳未満の受贈者に対する教育資金の贈与の特例については、主に祖父母からの資産移転が想定されますが、20歳以上50歳未満の受贈者に対する結婚・子育て資金の贈与の特例では、主に父母からの遺産移転が一般的とみられ、これは将来生じる相続財産の前渡し的な側面があること等が挙げられます。
まとめ
結婚・子育て資金の贈与の特例は、平成27年4月1日から導入され、平成27年9月末における利用状況が公表されています。
結婚・子育て支援信託の契約数(累計)は、2,695件、信託財産設定額(累計)は63億円となり、1件当たりの平均金額は233万円となっています。
制度導入から半年の時点で、着実に利用が広がっているといえます。
しかし、制度の利用にあたっては、制度の内容をよく理解した上で、利用すべきかどうか検討すべきでしょう。
特に、今回の「教育資金の贈与の特例との比較」の表でまとめている、教育資金の贈与の特例と違いを押さえておきましょう。